実務ガイド / 2026.07.20
建築士・個人事業主の
会計ソフト選び
設計事務所の経理には、一般の個人事業主とは異なる特有の課題があります。設計料の消費税区分、着手金・中間金の売上計上タイミング、外注設計者への報酬と源泉徴収——これらを踏まえたうえで、freee・マネーフォワード・弥生の3ソフトを比較し、一人の建築士事務所が会計ソフトを選ぶ際のポイントを整理しました。
01 会計ソフトを選ぶ前に — 設計業特有の経理課題
一般的な会計ソフトの比較記事は工事原価管理や多拠点・多部門を前提とした大手建設会社向けの内容が多く、一人の建築士事務所には過剰または的外れなケースがあります。まず、設計業固有の経理ポイントを確認しておきましょう。
設計料の消費税区分
建築設計サービスは全額、消費税の標準税率10%の対象です。軽減税率(8%)の対象品目はありません。インボイス制度への対応では、適格請求書に「消費税率10%」「消費税額」を明記する必要があります。
着手金・中間金の売上計上タイミング
着手金や中間金を受け取った時点ではなく、役務(設計業務)が完了した時点での売上計上が原則です。業務が複数回に分けて完成する場合(基本設計完了・実施設計完了など)は、部分的な役務完成ごとに計上する方法も認められています。担当税理士と方針を確認しておくと申告時に迷いません。
外注設計者への報酬と源泉徴収
個人の構造設計者・設備設計者に業務委託する場合、原則として源泉徴収(10.21%)の義務があります。年間の支払いが多い場合は会計ソフト上で「外注費」として管理し、納付書の作成が自動化されるかどうかを選定基準に加えると便利です。
専門書・製図道具・資格継続費用の経費区分
建築士の資格継続(定期講習)費用、建築学会・建築士会の会費、専門書籍、製図用品は経費として計上できます。CADソフトのサブスクリプションは「通信費」または「工具器具備品」として処理するケースが一般的です。
02 主要3ソフトの特徴比較
個人事業主の建築士が実務で使う会計ソフトは、freee・マネーフォワード クラウド会計・弥生(やよいの青色申告)の3択に絞られます。どれもインボイス制度・電子帳簿保存法への対応を表明しています(2024年1月以降の義務化対応を前提)。違いは操作感・外部連携・税理士との共有しやすさに出ます。
freee 会計
銀行・カードの自動取込、モバイルアプリの使いやすさ
日常の入出金管理を自動化したい、スマートフォンで経費入力したい方向け。インボイス登録番号の管理や適格請求書の発行機能も標準搭載。確定申告書の自動作成まで一気通貫で完結する設計が特徴です。
月額プランの費用は公式サイトで確認してください。
マネーフォワード クラウド会計
金融機関連携の豊富さ、会計・給与・請求書のクラウドスイート
取引銀行が複数ある、事務所の経費カードと個人カードを分けて管理したい方に向いています。マネーフォワード クラウド請求書と連携すれば、請求書発行から仕訳入力まで半自動化できます。
freeeと同様、インボイス制度・電子帳簿保存法対応は標準機能として提供されています。
弥生(やよいの青色申告)
税理士への共有しやすさ、弥生インポートCSV形式の普及
既に担当税理士がいる、または近い将来顧問税理士に共有する予定がある方に向いています。「弥生形式」のインポートCSVに対応したツールが多く、業務管理システムからの仕訳自動取込が実現しやすい点が特徴です。
インストール型(Windows)とクラウド型があります。クラウド型のやよいの青色申告 オンラインはスマートフォンからも操作可能です。
03 一人の建築士事務所が選ぶ3つの軸
3つのソフトはいずれも基本機能は十分です。以下の軸で自分の状況に合った選択をしてください。
- 軸1
インボイス対応と確定申告の自動化
適格請求書の発行から青色申告書類の作成まで一気通貫で自動化したい場合は、freeeまたはマネーフォワードのクラウド完結型が適しています。手間を最小化できます。
- 軸2
税理士との連携・共有しやすさ
既に担当税理士がいる場合は、まず税理士に「使用している会計ソフトは何ですか?」と確認するのが最速の選び方です。税理士が使い慣れているソフトと合わせることで、データ共有や仕訳確認がスムーズになります。税理士が弥生を使っているケースは多く、弥生形式での納品を求められる場合があります。
- 軸3
業務管理ツールとの連携(弥生CSV対応)
施主対応・請求書発行・工事監理記録を一元管理する業務ツールを使っている(または使い始める)場合は、そのツールがどの会計ソフト形式のCSVに対応しているかを確認してください。仕訳の手動入力が減り、月次の経理処理が省力化されます。
04 業務管理ツール連携で経理入力を省力化する
設計事務所向けの業務管理ツールと会計ソフトを連携させると、請求書発行から仕訳入力までの手作業を大幅に削減できます。特に月次の売上・決済手数料・外注費の仕訳を手入力している場合は、自動化の効果が大きい部分です。
連携の仕組みの例として、施主への請求と決済(クレジットカード・PayPay・銀行振込)を管理するツールが、売上・決済手数料・外注費の仕訳を弥生インポートCSV形式で出力するケースがあります。このCSVを弥生に取り込むことで、月次の仕訳入力が不要になり、税理士への共有も円滑になります。
会計連携の範囲や対応ソフト(弥生・freee・マネーフォワード等)は業務ツールによって異なります。導入前に公式サイトや問い合わせで確認してください。
05 あわせて確認したい経理・コンプライアンス
会計ソフトを選んだら、インボイス制度の適格請求書の書き方と、電子取引データの保存方法(電子帳簿保存法)を合わせて整理しておくと、確定申告・税務調査の両面で安心です。
適格請求書の記載事項と登録手順については設計事務所のインボイス制度対応ガイドを、電子取引データ(メールで受け取った請求書・PDFの領収書等)の保存要件については電子帳簿保存法 設計事務所ガイドをあわせてご覧ください。建築士法が定める帳簿・図書の15年保存・年次報告の義務については建築士事務所の業務管理ガイドで整理しています。
よくある質問
Q建築士(個人事業主)は青色申告と白色申告、どちらが有利ですか?
青色申告が有利なケースがほとんどです。65万円控除(e-Taxまたは電子帳簿保存を使用した場合)を受けられるほか、赤字を3年間繰り越せる、専従者給与を必要経費にできるなどの特典があります。白色申告に比べて帳簿作成の手間は増えますが、現在の会計ソフトはほぼすべてが青色申告書類の自動作成に対応しています。新規開業時は税務署への「青色申告承認申請書」の提出(開業後2か月以内)を忘れずに。
Q設計料の売上はいつ計上すればよいですか?着手金・分割払いの場合は?
原則として、サービス提供が完了した時点(役務提供基準)で売上計上します。設計業務の場合は「設計図書の引き渡し時」が一般的な完了時点です。着手金・中間金・竣工金と分割して受け取る場合でも、各回の入金時点ではなく、業務完了時に全額を売上計上するのが原則です(ただし、役務の完成度に応じて部分的に計上する方法も認められています)。実務上のルールは税理士に確認することを推奨します。
Q外注建築士・構造設計者への支払いに源泉徴収は必要ですか?
個人の外注先(フリーランスの建築士・構造設計者など)に業務委託料を支払う場合、原則として源泉徴収が必要です(支払額の10.21%、100万円超の部分は20.42%)。法人の設計事務所への外注は源泉徴収不要です。確定申告の際は「外注費」として経費計上し、「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」を提出する必要があります。外注先が多い場合は、会計ソフトで源泉徴収管理ができるかどうかも選定ポイントになります。
関連
Tategumiは、インボイス制度の要件を満たす適格請求書の自動発行と、電子帳簿保存法に対応した改ざん防止アーカイブを標準搭載。設計料の売上・決済手数料・外注費の仕訳を弥生インポートCSVで出力し、会計ソフトへのデータ入力を省力化します。