実務ガイド / 2026.07.21
設計事務所の確定申告
一人の設計事務所(個人事業主の建築士)が確定申告で押さえるべきポイントをまとめました。青色申告の手続きから、設計料の売上計上タイミング、設計業特有の経費カテゴリ一覧、申告書提出までの4ステップフローを解説します。
01 青色申告の基本 — まず確認する3つの手続き
設計事務所を個人事業主として営む建築士は、所得税の確定申告が義務です。青色申告を選択すると最大65万円の特別控除(e-Tax申告または電子帳簿保存法対応の電子帳簿を使用した場合)を受けられるため、開業時に手続きをしておくことを強く推奨します。
開業届の提出
事業開始から1か月以内に、居住地の税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。マイナンバーカードがあればe-Taxでオンライン提出も可能です。
青色申告承認申請書の提出
青色申告を適用するには、開業年は「事業開始日から2か月以内」に税務署へ申請が必要です。期限を過ぎると当該年は白色申告になります。翌年以降は申請不要で青色申告が継続されます。
帳簿の記帳(複式簿記)
65万円控除を受けるには複式簿記での記帳が必要です。現在の会計ソフトはfreee・マネーフォワード・弥生いずれも複式簿記を自動処理するため、日々の取引を入力するだけで対応できます。10万円控除の簡易簿記(単式簿記)を選ぶと手間は減りますが、控除額の差(55万円)を考えると複式簿記を選ぶ方が有利なケースがほとんどです。
02 設計料の売上計上タイミング
設計事務所で多い疑問が「着手金・中間金をいつ売上に計上するか」です。原則は役務(設計業務)の完了時に計上しますが、設計業務の性格上、いくつかのパターンがあります。
完成引き渡し基準(原則)
設計図書を施主に引き渡した日に全額の売上を計上します。着手金・中間金はその時点では「前受金」として処理し、引き渡し時に売上へ振り替えます。シンプルで誤りが少ない方法です。
部分完成基準(フェーズ別)
基本設計完了・実施設計完了など、業務が複数フェーズに分かれている場合は、各フェーズの完了時に対応する報酬部分を計上する方法も認められています。契約書にフェーズごとの報酬額が明記されていることが条件です。
工事監理報酬
工事監理報酬は、監理期間中に継続的にサービスを提供するため、月次または工事完了時に按分計上するのが実態に即した方法です。担当税理士と継続して同じ処理方法を採用してください(処理方法の年度途中変更は原則不可)。
03 設計事務所の主要経費カテゴリ一覧
確定申告で計上できる主要な経費カテゴリをまとめました。いずれも事業目的であることを証明できる領収書・請求書・支払記録の保管が必要です。
地代家賃 / 水道光熱費
事務所の家賃・電気代・通信費(自宅兼の場合は床面積・使用時間等で按分)
通信費
携帯電話・インターネット回線・CADソフトや業務管理ツールのサブスクリプション(月額SaaS費用)
旅費交通費
現場・官公庁・施主宅への交通費、出張時の宿泊費(日当は規程を作成して設定可)
消耗品費
製図用品・模型材料・プリンター用紙・インク(取得価額10万円未満の備品も含む)
工具器具備品
PCやタブレット・スキャナ等(取得価額10万円以上は減価償却。30万円未満は青色申告の少額特例で一括計上可)
図書費
建築専門書・建築雑誌・法令集・CAD操作マニュアル
研修費 / 諸会費
建築士定期講習・セミナー参加費、建築士会・建築学会・JIA等の会費
外注費
構造設計・設備設計・インテリアデザインを外注した場合の委託費(個人への支払いは源泉徴収10.21%が必要)
接待交際費
施主・協力業者との打ち合わせ・会食費(事業関連であることを記録に残す)
損害保険料
PL保険(設計瑕疵担保責任)・建築士賠償責任保険の掛け金
04 確定申告の4ステップフロー
1月〜3月15日の申告期間に向けて、前年の12月から準備を始めると余裕が生まれます。
- Step 1(12月)
帳簿の締めと書類整理
会計ソフトの仕訳が全て入力されているか確認。未入力の領収書・請求書を処理し、外注費の支払調書(個人外注先があれば)の準備を始めます。
- Step 2(1月)
消費税の申告(課税事業者の場合)
前々年の課税売上が1,000万円を超えた場合(または適格請求書発行事業者として登録している場合)は、消費税の確定申告も必要です。消費税申告の期限は3月31日ですが、所得税の申告と並行して早めに着手しておきます。
- Step 3(2月上旬)
青色申告決算書の作成
会計ソフトから「青色申告決算書(損益計算書・貸借対照表)」を出力します。事業所得 = 売上 − 経費の計算結果がここに集約されます。減価償却費の計算も会計ソフトが自動処理します。
- Step 4(2月中旬〜3月15日)
確定申告書の提出
e-Tax(マイナンバーカード+ICカードリーダーまたはスマートフォン)で申告すると65万円控除が確定します。税務署窓口・郵送でも提出可能ですが、その場合の特別控除は10万円になります。申告後は「確定申告書の控え(受信通知)」を保存してください。
05 会計ソフト選定と電子帳簿保存法への対応
確定申告の手間を最小化するには、日々の仕訳入力を自動化できる会計ソフトの選択が鍵です。設計事務所特有の経費カテゴリ(外注費の源泉徴収管理・設計料の消費税区分など)を踏まえた会計ソフトの選び方は建築士・個人事業主の会計ソフト選びガイドにまとめています。
また、2024年1月から義務化された電子取引データ保存(電子帳簿保存法)では、メールで受け取った請求書・PDFの領収書は紙に印刷しても不可となり、電子データのまま一定の要件を満たして保存する必要があります。設計事務所の対象書類(外注設計者からの請求書PDF・施主とのLINEでの変更指示等)への適用については電子帳簿保存法 設計事務所ガイドをご覧ください。
インボイス制度の適格請求書(登録番号・消費税額の記載)の書き方と、設計料の分割請求における注意点は設計事務所のインボイス制度対応ガイドで解説しています。
よくある質問
Q設計事務所(個人事業主)の確定申告の期限はいつですか?
毎年2月16日から3月15日が確定申告の受付期間です(土日の場合は翌営業日)。ただし、青色申告の承認を受けるためには、開業した年に開業後2か月以内に税務署へ「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。翌年以降は自動的に青色申告扱いになります。e-Taxまたは電子帳簿保存法対応の電子帳簿を利用することで、65万円の青色申告特別控除を受けられます(紙・郵送申告は10万円控除)。
Q設計料の売上はいつ確定申告に計上すればよいですか?
原則として、役務(設計業務)の完了時点で売上を計上します。設計業務の場合、「設計図書を施主に引き渡した日」が完了時点の目安です。着手金・中間金・竣工金と分割して受け取る場合も、各入金日ではなく業務完了時に全額計上するのが原則です。ただし、業務が複数フェーズ(基本設計完了・実施設計完了など)に分かれる場合は、フェーズ完了ごとに計上する方法も認められています。担当税理士に確認しながら継続して同じ方法を採用してください。
Q建築士の確定申告で認められる経費にはどのようなものがありますか?
設計事務所として認められる主な経費は以下のとおりです。①事務所費:事務所の家賃・光熱費(自宅兼の場合は按分)。②通信費:電話・インターネット・クラウドサービス(CADソフト・業務管理ツール等のサブスクリプション)。③旅費交通費:現場への交通費・宿泊費(領収書保管)。④消耗品費・工具器具備品:製図用品・模型材料(取得価額10万円未満)。⑤図書費:専門書籍・建築雑誌。⑥研修費:建築士定期講習・セミナー参加費。⑦諸会費:建築士会・建築学会の会費。⑧外注費:業務委託した構造設計者・設備設計者への報酬(源泉徴収義務あり)。⑨接待交際費:施主・協力業者との打ち合わせ費用(事業関連のみ)。いずれも事業目的であることを証明できる記録(領収書・支払記録)を保管してください。
関連
Tategumiは、インボイス制度の要件を満たす適格請求書の自動発行・電子帳簿保存法対応の改ざん防止アーカイブ・弥生インポートCSV出力を標準搭載。確定申告に向けた帳簿整理の手間を大幅に削減します。